
その日の仕事がハネたら、わたしは広島県の福山市に出かける予定にしていた。
「アイリーさん アイリーさん。お伝えしたいことがございますので・・・・」
拙サイトのゲストさんから、そういったメールが届いたのだった。
このコーナーにそのコラムを置くということは その内容の概略について わざわざお断りするまでのことはないだろう・・・。
終業のチャイムが鳴った。カバンにいれた携帯電話のモニタを見るとメッセージあり。留守番メッセージに、師匠先生からの声が残されていた。
「にょほほ〜。アイリー君(仮名) 元気かね〜。仕事が終わったら電話ちょうだいよ〜。」
広島での約束の時間には、まだまだ時間があった。職場から寄り道をして帰宅をするということは、わたしには滅多にないことだが、少しだけ遠回りをして師匠先生のお宅にお邪魔することにした。
かねてから、もしも見つける機会があれば連絡してくださいと予算をお伝えしたうえでお願いしていたブツがあった。それを今回購入した金額は、5,000円ではちょっと不足、一万円札ではお釣りがあってヤキトリ屋で軽くイッパイ・・・という程度の新品パーツだった。
「すまないね〜 わしがこんなもんを見つけてこなけりゃ キミもお金を遣わないで済むのにね〜。わしゃあ 貧乏神みたいなもんじゃのう〜」
なるほど、これはおもしろい。
神様にもいろいろあるよなあ。貧乏神に死神、厄病神に祟神。そういえば古来、神とは必ずしも幸福をもたらすものではなかった、というようなことが書かれた本を昔読んだことがある。
そうか。レスペクトの裏側には 畏怖あるいは蔑視が潜む そんな考え方もあるよな。これからは「〜の神様」という言霊は うまく使い分けをしよう。それからその文言を含む文章を読むとき、それがどちらなのか看破するように心掛けよう。
わたしは我に帰り、貧乏神(←コラ)に質問した。
「師匠先生!こいつをわたしがリプロするのって、困難でしょうか〜?」
このブツとは、W1S-Aのフロントブレーキワイヤーだ。
ワイヤーが途中で二股になっていて、枝のほうにはブレーキスイッチが仕込まれている。右レバーAsseyの構造はW1Sと同様だが、当時に前輪のブレーキにも停止灯が義務付けられたことで製作されたらしい、異形のワイヤーである。
コストも、一般のものと比べて高く また歴代のダブルのなかにあって なぜか一般の脚光をやや浴びにくいW1S-Aのフロントブレーキワイヤーは、もうずいぶん前からメーカー欠品となっていた。確かに、右レバー部分に他のドラムブレーキ車のスイッチ部分を流用してやれば、まったく問題のないものだけど。
それからギュギュギュ〜ッと握りこんで、ふう、と停止することにも、わたしは慣れすぎてしまっている。新品ワイヤーが手元にあるうちに、こいつの複製を何本か作っておきたい。その現物と複製1本は わたし自身のために。そして残りは 同士のために。わたしのことだから 利益を取るつもりは毛頭無い。これが「愛」だ。頑張ってみようとは思うが、スケールメリットや部品調達の面で損だけはしたくない。ついては みなさまに資金カンパをおね・・・・
シルクロードで自宅に戻るとき、そんなことを考えていた。むむ。おかしい。もしかして、わたしにも神が宿ったか!
実現が約束できないものに、他人様からお金を集めて、自分の目的を達成したいだけではないのか!
こんなのはダマシと一緒だ。
いったいわたしはどうしたっていうんだ・・・
福山行きの身支度でクローゼットの鏡の前に立った。そのとき、それまで感じていた違和感がの理由がようやくわかった。護符が半分ハガレかかっていたのだ。
「忌神の陰謀か・・・。」
半分めくれた護符を、もういちど貼りつけるのは、なかなか困難だ。というのが、わたしの額は年齢ほどには面長ではないが、ちょっとだけオイリーなのだ。
治癒寸前の半分めくれたカサブタがあったとしたら、わたしはどちらかというと毟り取ってしまうほうだ。結果的に傷跡を大きくすることが多いが どういうわけだか見つけてしまうと、もうどうしょうもない。
「また作ったらええんや。まあええわ。」
護符をぺりぺりとハガした。
どこからだろうか 少女の声が聞こえた。わたしの娘ではないようだ。というのは、いささか流暢ではないがいちおうクィーンズイングリッシュだったのだ。
わたしの娘が知っている英語といえば、わたしが知らないうちに、はらだ3.1画伯が仕込んでしまった・・・「オッケェ ベイベィ」と「アイチャント ストップ ザ ロンリネス」くらいのもんだ。あとはせいぜい、「ダブルスリーエー」くらいか。
いったい誰なんだろう。わたしは訝りながらあたりを見渡した。人影はない。ただ、鏡がゆらゆらと白く揺れていたようだった。
鏡面に手を置いた。すうっと手が入った。これはおもしろい。もしかすると神々がわたしを・・・・。
そう思いながら、鏡を通り抜けてみることにした。別段なにも周囲は変わらない。そこにはたったいま脱いだばかりのジャケットがあった。
福山での待ち合わせ時間が迫りつつあったので、わたしはクローゼットから ポロシャツとデニムパンツを取り出した。それからさっさと着替えて、JRの駅に向かった。
W1S-Aで行こうかと思ったが、酒を飲むかもしれない。今日は電車だ。『michiさん』とは、福山駅の改札で待ち合わせた。
どんなお話がうかがえるのか 期待でいっぱいだった。
「ここではちょっと」と言う彼のことばに従って、わたしは電車に乗ってさらに西の町を目指した。
そこは尾道だった。駅の改札をぬけ ガード下をしばらく歩いた。
「じゃあ ここでちょっと呑みましょう。」
わたしたちは止まり木に腰掛けた。世界中のあらゆるお酒を取り揃えておりますというマスターに、オーダー。
「じゃあボクは、サントリーオールドのマイルド&スムースを水割りにしておくれ・・・。」
最近 みょうにこの酒が口にあう ということはおっさんになってきたか・・・。恋は若き日の思い出ではない・・・いいコピーだ。
グラスの底に敷かれたコースターには『満鉄』と書いてあった。
わたしのこと、とくにオートバイ遍歴にあっては、かなり忠実にサイト上に置いてあるので、自分のことについて多く語る必要はなかった。わたしは彼の淡々とした語り口に、耳とグラスを傾けるだけだった。
「まじっすか」
彼は わたしよりすこし年上。通称がゼッティー、本名Z750T、発売寸前のプレスリリースでは「W4」と呼ばれたオートバイについ最近まで乗っていたのだそうだ。
「ひとつ遡ってW3を探そうかと思って手放したんだけどさ。プレミアムがすごくって、手が出せないね。」
笑いながら、彼はグラスを空けた。
われわれ限定解除世代にとっては、制度撤廃の後で、大型中古車価格の無体な値上げについて苦々しく思ったものだ。
アメリカからの外圧で開放しておいて、アメリカ生産のオートバイがどっとナダれこむはずの市場だったが、結果的に古物商の資格を持つ人々がおおいに潤うことになった。また、その資格を持たない人でも、やり方次第で潤うこともあると聞く。ともかくも制度撤廃で潜在需要が掘り起こされてしまった。需要があるから、供給もなされるわけだ。
家に眠っているお宝ブームというのがある。<原稿1枚紛失>
持ち主にとってもはや使い道の無い粗大ゴミも、愛されることがなくなってしまったオートバイも、キャッチーなコピーを添えてセリにかければ「自分が価格を吊り上げているわけでない」という免罪符と引き換えに、結構なお金を得ることができるそうだ。
すべてがそうなのだと断定はしないが、盗品さえもあるのだという。ひどい話だ。
ブーム便乗のお宝発掘 というより 錬金術そのものかもしれない。盗品にプレミアムかよ。まったくもってヒドイはなしだ
と、もはやステータスではなくなってしまった「限定解除取得者」という名の、薄っぺらいプライドのことを思った。
「免許と言えば」
michiさんが別の話題を切りだす。
「僕は学生のころ 東京にいたんだ。
二子玉川の教習所で中型を取ったんだけどね。そのコヤ○ドライビングスクールには整備工場があってさ。映画が封切されたときに、どっかで見たことがある光景だなあと思ってたら、やっぱりそうだよ。バイク便の事務所は、あの整備工場だったんだよ。」
ということはそこの教習所では、ウデを伸ばして、肩をすくめて、脚をひろげて乗るスタイルを習うことができるんですね?!と聞きかけたが、ヤメにした。禁じネタ「役作りライディングスタイル」については いくらなんでも教習所では教えられることはないだろう。だいたい あの乗り方・・・<原稿3枚紛失 風味♪>
妻の遠隔操作で、その日は電車で自宅へと戻った。
歯を磨いて 自室でやすむことにする。
洗面台に立った。すこし嘔吐感があった。鏡が白く揺れた。
そうか、それならストーリィの流れは滑らかだな。
小説ではZ2がしたはずの役割は、撮影時に黒のW1Sに差し替えられたが、そのシーンはスクリーンに映し出されることはなかった・・・。
こんなタレこみ情報を思い出しながら、ひとり自室でヴィデオを見ていた。
どこかからで、映画のLDを入手したということで、再生装置を新規に購入したばかりの風俗刑事さんから、わたしへのプレゼント・・・・
画像も音の輪郭も鮮明だ。
コヤ○ドライビングスクールのシーンだけを凝視してみた。
「おれとおまえのあいだには もうなんにもねえよ」
というところだ。KO・・というロゴが確かにあった。ふむ。
個人的に感心するシーンが、すぐその次にあった。2ケツのW3-Aがアパートに戻ってくるところだ。
W1Eの奏でるメゾピアノ、それが前方からマイクで録音されている。
イイ音だ
当然のことながら、よく整備されたW3-A。
アクセルオンのときの音、あるいは信号待ち映像での音がよく話題にのぼりがちだが、あのアイドリング音こそW1の妙味だとわたしは思う。
ぼんやりテレビモニターを眺めていた。
すると、ほんのさっきまでわたしたちが呑んでいた店が、ちょうどモニタ上に出ていた。
<原稿1枚紛失 ← 卑怯者〜>
オチが浮かばなかった。ただそれだけのことである。でも、せめてタイトルくらい、いちおう付けようか・・・・
Through the Looking-Glass and What Irie Found There
やれやれ