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私の青空

May 01,2009

「ボクらの名前は…」(ユニゾンで)

「51023-022」と片方が

「51023-023」すかさずもう一方が

KAWASAKI W1S-A初期型の燃料タンクのコックはふたつある。

「ボクはフュエルコック・アッシーの右と左」(ユニゾンで)

「表面は」と右側が

「サンドブラストしてもらった」今度は左

「ちょっとだけ」

「輝いている」

「でも」と右。

「でも」と左。

ええい、お前ら。切れギレで話すのはヤメろ。え、なんだって??

「肝心のパイプが」

「劣化したガソリンのガムで」

「詰まってる」(ユニゾンで)

「リザーブも」

「通常のパイプも」

「詰まっている」(ユニゾンで)

会話で行数を稼ぐなんてのは、プロじゃないんだから止しなさいってば。何の意味があるっていうんだい。そもそも擬人法ごっこもビミョーな感じだしさ…。

あー、誤魔化そうと思ってたんだけどさ、ウェットブラストの件。

ああ あれ うまくいかなかったみたいよ。

ご家庭レベルのコンプレッサと脳天気なアイディア程度ではね。

さあフュエルコック・ブラザーズに話題を戻そう。

この兄弟、構造は同じもので、キャブレターに燃料を吐き出す口が右側に向いているか左側に向いているのかということに、存在の意味が分かれている。

長さ8cmくらいのパイプがフュエルコックに刺さっていて、燃料タンク内部の底から天に向けてそびえ立っている。この中を通る燃料が「O」すなわちオープンとしてキャブに流れるわけだ。

それから先ほどのパイプが刺さっている場所のすぐ横に、目の細かい網の樹脂製の筒が、やはり刺さっている。これに濾された燃料は、コックが「R」つまりリザーブに向けられたときのみ吐出されることになる。

ちなみにその樹脂の網は、オープン側の真鍮パイプにもキャップとして取り付けられてある。

都合4個の樹脂フィルタのキャップが、タンク内部に滞留する異物をキャブレターに送り込まないようにする砦だ。

その樹脂製フィルタのキャップには、外から触れても潰せないくらいスラッジが溜まっている。4個とも全部。ぜんぜんダメじゃん。

燃料通路を掃除するのに、フィルタを切断したり破らないようにしないといけない、とアイリーさんは腐心していた。なんとか汚れを溶かして、詰まり抜きができないものかと。

そしてコックはガソリンに数日間沈められた。後に融解の具合を調べたとき、この頑固なガムをキレイに除去するのはフィルタを一度取らないと無理だと、判断した。そうなるとフィルタはなんとか取り外して温存しておきたい。できるだけのことはしよう、アイリーさんはそう思った。

案の定、そう表現するのが相応しいだろう。リザーブ側のフィルタは左右とも壊れてしまった。アイリーさんの腕では無理だった。ただそれだけのことであるが。一方でメインの「O」側は何とか抜き取ることができた。それは不幸中の幸いだ。

パイプの内壁を掃除するのに、2mm径のドリル歯が差し込まれた。ドリルの溝にコビり付くネバっこいスラッジは、ウエスに拭い取られる。むかしそれがガソリンであったという事実を、俄かには信じられないアイリーさんだった。

「この指先の感覚に、覚えがある」アイリーさんはその記憶に遡り始めた。

ああそうだ。むかしむかしのことだ。W1Eクランクのオイルパセッジからイモネジを外して、スラッジ取りをしたときの感触。あれと同じようなモノがフュエルパイプに詰まっているとは…。嫌な感じだ。

やがて4つの穴は貫通した。地道なドリル作業のお陰だ。ケミカルだけでなんとかしようとしても、所詮無理だったのだ。

前述した「O」側のパイプは、真鍮の筒が使われている。内壁の掃除を終えてから外壁の汚れを取った。そのあとでアイリーさんは首を傾げた。

「はてな」

右側フュエルコックの真鍮パイプには、縦にクラックが入っていた。製造時の都合か経年変化なのか振動のせいなのか腐食によるものなのか、その原因はもちろんアイリーさんには判断がつけられない。

「あれ。もしかして、このせいで・・・・」

ダブワンというオートバイ、リザーブが少ないのは仕様であって、切り替えて程なく、つまりすぐにガス欠になるのも詮無いことだと20年来アイリーさんは思い込んでいた。なるほど、このヒビから燃料はキャブレターへと流れていくだろう。

右と左のコックは独立しているが、右は右のキャブに左は左のキャブにのみ燃料を送るだけなのかと思いきや、バンジョーは左右のキャブの燃料パイプを連結している。

もうお察しだろう。

え。

わかりませんか。

えーとですね。(筆力の無さは棚に上げている)

右のコックが右のキャブだけに、左が左のキャブのみに燃料を送ることになっているとしたら、俺の場合だと左だけリザーブになっちゃうわけです。言い換えたら、右は「O」で動いているのに左は燃料が行かないから片肺になるわけですね。左右キャブの燃料パイプが繋がっていれば、このケースでの片肺は防ぐことができますよね。

えっ?わかりにくいですか。

えーとですね。仕方が無いんでもう、さらっと流してください。

アイリーさんは、先日のエルシノ庵を棚卸したときに発掘したばかりの、真鍮を細かい目で編んだ網を持ち出してきた。それをクラックの入ったパイプに巻き付けインシュロックで固定した。その上から樹脂を塗る。これでクラックは埋まったはずだし、燃料を濾すフィルタも兼ねる格好になる。

フュエルアッシーのメンテナンスはこれで仕上がった。もう一度ぴかぴかに磨きこまれ、Oリングは新調。内部処理を終えたフュエルタンクに締め付けられる。

早速テスト。農業用ガソリンタンクから醤油ちゅるちゅるにて燃料が移された。左右それぞれの「O」「R」「S」の具合、出る位置では出て、止まるべきにはきちんと止まるのかチェックだ。

「うむ悪くはない。悪くは無いけどフレームに組む前に、ま、一応」

アイリーさんはふたつのフュエルコックの先にある、ふたつの燃料の吐き出し口を燃料ホースで連結した。そして左右とも「O」にした。

一晩放置。

翌日。

わずかだ。わずかだけどレバーのあたりに燃料の滲みを見つけた。まだだ。まだ組んではいけない。対策が必要だ。

人徳でっせ 茶金さん♪(ギャグの解説はしません)

アイリーさんは、W1クレージーズ製作のゴム部品一覧表とパーツリストのにらめっこを始めた。

原因不明の不調などない。探れば見つかる。知ろうとしさえすればきっと原因に行き当たるはずだ。「はてなのダブワン」なんて、ありえない(ギャグ解説してしまったかも)

今回はコックのパッキンが悪いわけだ。それから真鍮パイプも悪かったわけだ。問題点を問題だと気付かなくてもなんとか乗ることはできるおおらかさも、ダブルにはある。妥協点は人それぞれだ。

間口は広い。そして先人から続く道は、伸びている。

「ビンゴ!(言い回しが古い)」製作部品表に今回必要なモノが載っている。

アイリーさんはクレージーズの森さん宛ての手紙を書き始めた。ゴム部品の取り寄せだ。92065-082 W1SA初期フュエルコックレバーG/K 2個をお願いします、と。

Long Live W1クレージーズ!!

俺の前輪は、ダンロップのF11が履かされているが摩滅している。このままでは車検に臨めないし、だいたい危険であることは明白である。

アイリーさんは当座しのぎに、W3のノーマルホイルに付いていたTT100を使うことに決めて俺の前輪に組み付けた。

エアを張ったら…。

あれ、回らない。

フロントフェンダーステーにタイヤが接触する。

タイヤのサイズには、4.10-19と書いてあった。

「うわ。うちのW3って、昔々は前輪のほうが後輪より太いのを使ってたのかよ」 アイリーさんは戦慄した。

W1系とW3との構造の違いについて、あらためて再認識した様子だ。「なにがw1-3.comだよっ」ひとり毒付いている。

あきらめて新品のF11を調達することになった。WEB通販で意外と安く手に入ることがわかったのだ。最初からそうしたほうが良かったのかも知れない、とは思わない。愚考の末、手を動かして確認したことに価値を見出すのだ、とアイリーさんは主張している。いつも通りに。

タイヤの納品を待つ間、アイリーさんはホイル・ベアリングを洗浄したり、ブレーキシューやらライニングを掃除したりして過ごすことにした。俺はジャッキアップされ、前輪まわりを分解清掃してもらう運びになる。

そのときアイリーさんが思い出したのが、台風一過海水没事件で洗浄した際、アクセルシャフト周辺に油染みを見つけたことだった。位置から想像するとおそらく、フォークオイルがドレーンから染み出したものだろうと判断していた。ということは、フロントフォークのオイル量をメンテナンスする必要がある。きっと入れ替えるべきだろう。

アイリーさんは言った。「フォークオイルの在庫は無いなあ。買ってこなけりゃならないよ」

ついでだ、と俺の前輪に関連する部品についてじっくりと観察しはじめた。ほかにやっておかなければならないことは何があるのか、省略してもよいのは何なのかチェックしたり記憶の底から何某かのデータを呼び戻そうとしている。

そうだ。フロントブレーキのワイヤーはオリジナルのものではなかった筈だ。15年くらい前、ツーリングに出た先でレバー周辺でワイヤーがササクれ始めたなと思ったらプツンと切れた。前ブレーキを使うことなく自宅までの100kmの道のりを、根性と気合いで帰ったのを思い出す。そのときは俺の前をずっと黒いソフテイルが先導してくれた。ライダーは、しんえもんさん。

あの時の修理は、ホンダのスクーターのワイヤを流用して修理対応してもらったんじゃなかったっけ。確かタクトか何かの部品で。バイク屋さん任せにしたんで、具体的にどうしたのか覚えてないけど。

ここは純正新品の出番だろう。10年前に師匠先生ルートで出てきたのを譲ってもらったパーツだ。「54005-059・ケーブル,フロントブレーキ」のタグがある。こいつをベースにして"長屋の大家"ペイさんのルートで作って貰ったリプロ・ケーブルの在庫もウチにはあるけど。

ああ今ついているフロントフェンダーだって、これもそのブレーキワイヤと同じとき師匠先生ルートで買った純正新品モノだったなあ。残念ながら経年変化で裏側に錆びが発生しているけどさ。

その錆びをキレイに除去したところでアイリーさんは思い出した。

「そういや、ステンフェンもあった」

エルシノ庵には、愛知の風俗刑事さんから10年ほど前に譲ってもらった、W1S後期型用のフロントフェンダーがある。目立ちにくい場所にわずかなヘコミがあるけど、なかなかの美品だ。鈍く輝くステンレス素材。せっかく分けて貰ったのに一度も使わないのは勿体ない。

「これこれ。これを使おう♪」

タイヤが届いた。ついでに後輪も頼んでいた。後輪はサイドウォールにひび割れがあったので、KIWIの靴墨で誤魔化すことも一瞬考えてはみたものの危険なので、新品にしておこうと思ったみたいだ。ダンロップのK87MkIIを選んだ。前輪F11後輪K87MkII、ド定番のド真ん中だ。いいねえ。

フロントフォークのオイルも調達済み。アイリーさんは少し固い番手のものに興味があった。エルシノ庵に在庫していた新品の純正ブレーキワイヤーと新品ブレーキ・シュー、ここで使わねばいつ使う、って部品群が並ぶ。ええねえ。

F11は、サクサクとフロントウイールに履かされた。ステン・フェンはクロームメッキ・フェンと入れ替えられた。 お。おやおや。ステンフェンにはケーブルガイド取り付け用の穴が無い。ま、いいかあ。アイリーさんはアバウトなのである。

んで、さんざん考えた挙句、フロントフォークは分解清掃しないで、あえてオイル交換だけに留めようと決めたみたいだ。

何故?

ええそれは、面倒くさい、とアイリーさんが思ったからです。

いやいやホンマはですね、15年ほど前に信頼のできるショップでオーバーホールして貰ったことがあるからなんですよ。このセンテンス、買った店では無いってとこがミソです。

「ウソを組んどる」(岡山弁で「でたらめで間違っている」の意)と言ったショップの大将の言葉が印象的でした。何がどうだったのかは失念しておりますが。

後に、EJエキパイにW系単純共鳴マフラーをセットしてくれたのがこの大将だ。「ああ、そのショップに立ち寄らなくなってしまって久しいなあ」とアイリーさんは呟いた。

出向いたところで今のところ欲しいオートバイは特に無いわけで、忙しい手を止めさせるのも気の毒だし。まさに「お邪魔」。そりゃ大将も息子さんもニコニコと迎えてくれるのはわかっているんだけど、昔ながらの常連さんや最近のお客さん達が談笑しているところに割り込んでしまって「あんた誰よ?」って顔されるのもなんだか癪だし。

ま、そういうことで大将の整備に敬意を示し、今回はオイル交換のみ、なのです。

左右のフォークフィッティングボルトを外して、アイリーさんは、直径3mm長さが1mほどの表面がピカピカに輝くアルミ棒を持ち出してきた

棒の表面に埃が無いことを確認してインナーチューブの内部に差し込む。現状での油面を記録しておきたかったからだ。ビニールテープでバミった箇所に定規をあてがったとき、左右の油面がずいぶん違っていることに気付いた。ドレーンから漏れたのかどうか、それはわからない。その数値は、あえて記述しないでおこう。笑われたら厭だからね。

100円均一ショップで売っている樹脂ジョウゴ。その周囲に柔らかい針金を取り付けたものをオイル交換作業時のスペシャル・ツールにすることを常にしているアイリーさんは、今回もいつものようにジョウゴをアウタブラケットにセットした。W1S-Aの場合、何のなごりか知らないけど、アメリカの遊園地に生息するネズミの耳に似た形の突起があるので、そこに針金を巻きつける。ジョウゴの先には500mlペットボトル。当然中身は空っぽ。

まず左側のドレーンのネジを緩めた。

オレンジ色の液体が落下してくる。

右側を作業する前にふと思い立って、ペットボトルをはさみで切り刻んで作った仮作業用のジョウゴを準備した。そして右のドレーンも取り外された。

ドレーンはアクセルシャフトに対して前に位置している。フロントフォークというもの、一般にキャスターと呼ばれる傾斜をつけてセットされてあるのは言うまでも無いが、ということはこのままの位置関係でオイルを自然落下させたところで、全部は排出しきらないのではないかという考察は瞬時にできる。

そこでフェンダーを取り付けないで左右のアウタブラケットを180度回転させることにした。左右にジョウゴをつけたままで前輪を取り付けた。

裏向きに組んだ格好となる。実走するわけではないから差し支えは無いと思う。

ジャッキは開放され、アイリーさんは俺に跨りハンドルを握った。

ガッシュガッシュ

前後に揺さぶられる俺。

ぽたぽたと、どす黒いオイルが滴になってドレンから出てきている。

全部出し尽くしたころに俺は再びジャッキアップされた。

ドレーンのワッシャはオイルストーンで磨かれて所定の位置に納まる。

再び180度回ったアウタブラケット。

ステン・フェンが組まれたフロントフェンダーステーを取り付けてから、前輪を正しくセットした。

滅多に開くことのないSM-3。この場合ミサイルをあらわしているわけではない。W1の整備書だ。アイリーさんはそれを紐解いて規定の量を調べた。

フォークオイルをメスシリンダーで計量して、左右のインナーチューブそれぞれに注ぐ。フィッティングボルトを仮に締め付けてからジャッキを外す。

再びガッシュガッシュされた俺。

しばらく経ってフィッティングボルトが取り外された。輝くアルミ棒で新しいオイルの油面を計測するのだ。

もしも極端に差があるならば、と想定して準備されていた注射器&ビニルチューブの出番は無かった。左右の差は無い。精度は甘いかも知れないが。

アイリーさんは、今までフロントフォークに入っていたオイルの量は、規定よりずいぶん少なかったんだと思った。

俺は20年前、廃業したばかりの喫茶店がバイク屋になったという雰囲気のショップからアイリーさんのところにやってきた。車検1年付きで38万円。

ねえねえ。今からほんの15年くらい前までは、製造後10年経過した車両の継続検査は毎年受けなければならなかったってことを知ってますか?そんな頃もあったんですよっていう注釈を少々。

ダブワンじゃ。ダブワンに乗るんじゃ、と息巻いてアイリーさんが限定解除したその日、俺は身請けされた。

38万円が妥当だったかどうか、それはなんとも言えない。

微妙な金額だったね。世の中はバブルで踊ってたし。

さあ、そろそろ継続検査を受けに行こうぜ!アイリーさん!! どうした?浮かない顔してさ。

何?車検用にとっておいたお金が、ちょっと足りないみたいだ、って?いろいろあったからなあ、そりゃ仕方ないなあ。

生活費が先か 車検代が先か。

昔はどっちもあったよ。Анекдот(アネクドート)みたいだね。

アイリーさんのお小遣い配分だって若い頃のようなわけにはいかない。 分母は同じでも俺に向けられる比率が少し減っている。いろいろあるさ。

ああ 今年もゴールデンウイークが来たねえ。みんな走ってるねえ。
でも俺はいつも俺、待つのに慣れている。

夕暮れに仰ぎ見る 輝く青空
日が暮れてたどるは 我が家の細みち
せまいながらも楽しい我が家
愛の日影のさすところ
恋しい家こそ 私の青空

私の青空/高田渡

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続く

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