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オレカマ

Feb 10,2009

アイリーさんは歌った。
♪プッシュロッドがブロロロロ〜

2mm厚のアルミ板で作った治具も、へたくそ時代に酷使したせいでずいぶん痛んでいる。右側の気筒を動かすぶんのプッシュロッド2本を適正な位置に導く溝が、すこし変形してしまった。そろそろ作り直したほうがいいかも知れないと思いつつアイリーさんは、W1Sのシリンダヘッドにロッカーケースカバーを取り付けた。治具が変形したぶん腕は上がっているわけで、スムーズに事は終わる。

俺は彼のエンジンを抱くわけだから、オイルラインも彼のものをそのまま使うことになっているみたいだ。アイリーさんは彼のものだったオイルクーラーからホースを取り外してオイル交換用の受け皿の上に置いた。残留オイルを自然落下させて抜く算段みたいだ。続いてパーツクリーナを内部に吹き込んでいる。排出された液が透明になったことを確認してから今度はエアブロウ。血管壁内に蓄積していたコレステロールと細胞壊死物質を取り去ることができたはずだ。こうしてオイルクーラーは俺のものになった。

彼のオイルフィルタは効果があったのだろうか?どうだろう、とフィルタカートリッジを取り外したアイリーさんは、カートリッジをグラインダで切断した。

げ。

なるほどそれなりに価値はある。この仕様は継続されることになった。 こうしてオイルフィルタは俺のものになった。

さてアイリーさんはドライサンプの本丸であるオイルタンクを、俺から取り外した。注入口から純正式オイルフィルタを引き抜いて、そのフィルタは灯油を満たしたインスタント・コーヒーのビンに沈む。汚物が付着していたから徹底洗浄する必要がある。近所のオバちゃんが「これ食べてみてよ」とおすそ分けしてくれるウメボシみたいになってしまった。

今後はカートリッジ式のオイルフィルタにその役割が移るから、ここまで洗浄されるのはこれで最後になるのかも知れない。

オイルタンクにホースのバンジョーを取り付けるユニオンボルトの直径を調べたアイリーさんは、妙に大きなサイズのナットを2個調達してきた。ユニオンボルトに銅ワッシャとナットをカマせてタンクに締め付けた。灯油を注ぎ込んで蓋をしてシェイクしてみたりエアブロウして内壁を洗浄するにあたって、底に栓をする必要があったのだ。

安物のパーツクリーナをスプレーしたり蓋をしたりシェイクしたり。 ユニオンボルトを外して洗浄液は排出したり、再び取り付けて灯油を注いだり。 洗浄作業は繰り返され、長年の垢は落とされた。どのW1もそうした傾向があるとは聞くが、俺の場合もひどく汚れていたってことがわかる。それにしてもSST「大きなサイズのナット」が果たした功績は大きい。

アイリーさんは、納屋「エルシノ庵」からなにやら二種類の部品を持ち出した。艶消し黒のと鈍い銀色の部品。それぞれが細長い。それらをグレイハウンド・ジムニーに積み、師匠先生のお宅へ。

「お知恵、拝借♪」

黒い部品はクラウザーのトランクを取り付けるステーだった。そのクラウザーはGPZ900Rに取り付けられていたものだ。このサイトで時折出てくるアイリーさん御幼少時代からの御学友「PA屋の社長」が先日引っ越しをした。作業を手伝った際に「不用品だから使ってくれ」と譲り受けたものだ。そのときにヤマハのMIDIキーボードと日立のコンプレッサも一緒に貰っていた。電話の着信メロディを自作するのに使ったり、サンドブラストなどに使って重宝してきたが、ついにK2も使うことになるのか。うむ。その気になりさえすれば、不要なものなど何ひとつ無いのだ。

きっと偶然だろう。GPZ900R専用の取り付けアタッチメントの組み付け角度を、僅かに変更しただけで俺にフィットしてしまった。片側で3点が俺に接触してきている。リアフェンダーステーとリアフェンダを結ぶ、本来ならノーマルのウインカステーをトモ締めする穴がひとつ目。フレームとリアフェンダーステーを固定するボルトのところで二つ目。サイレンサとタンデムステップをトモ締めする穴で三つ目。現代のカワサキ式端子をレガシーな端子に作り変えたら出来上がりだ。

そのクラウザーのステーは、終端に角ばったウインカーが付いているやつで、たぶん商品名なんだろう「K2システム」と書いてある。ふふん、ネーミングが良いじゃないか。

「これを取り付けるとして、ウインカレンズは純正の丸いやつを使いたいのです。つきましてはお知恵を拝借」

「水回りの塩ビ管、あれの末端に取り付ける栓が使えそうな気がするねえ。常時点灯じゃないから熱もそれほど心配しなくていいと思うし、キジマのテールレンズみたいになることもなかろうし」

グレイハウンド・ジムニーは、資材屋を目指す。調達されたばかりの塩ビの蓋は、入念な採寸の後で切断されたり穴を開けられたりした。それから粗目のサンドペーパーで表面が削られ艶消し黒に塗られた。

銀色の部品は、メッキが腐食したり剥がれたりしている箇所のあるサイレンサ。K1・K2・W1の純正部品のいわゆるモナカマフラー。以前手に入れたときに一度張り合わせを開けてもらって、内部の腐ったグラスウールを全部掻き出して再びモナカを閉じてもらったマフラー。あの時どうして再メッキしてから張り合わせなかったのか今でもアイリーさんの心に後悔が残っているマフラー。

「小汚さを緩和する方法ってありませんかね。つきましてはお知恵を拝借」 耐熱ペイントとコンパウンドと真鍮ブラシとウエスを利用した掃除方法の伝授を受けるアイリーさん。

モナカ・マフラーも、師匠先生から手ほどきを受けた要領でお化粧されて俺にセットされた。どういった心境の変化なのだろう、静かに走りたいのかい。20年前に俺を手に入れた時、無改造で合法的に誰からも咎められることなく大きな音を出して走ることができるオートバイが欲しかったからW3やTXを避けたのを忘れてしまっているんじゃないだろうね。だいたい検査ラインにモナカで入るわけにもいかないだろ。やっぱり車検はノーマルの一点吊単純共鳴マフラーで臨まないと。俺を改造車にするのかい?アイリーさんだって何人も知っているけど、ステージ衣装のほうが移動のときに着ていた私服より地味な格好をしているプロ・ミュージシャンみたいじゃないか。

ま、いいか。 静かなマフラーと大きなトランク付けて俺とキミとで、旅に出るかい。 ついでに旭の布風防とか、取り付けたりなんかしちゃったりなんかしちゃったりして。

アイリーさんは金属製のバケツを用意して、エルシノアのフュエルタンクから色が少しブルーグレイがかった液体を丁寧に移している。その液体はファクトリーミルウォーキーの「花咲爺」。エルシノアのタンク内部を処理した廃液だった。その廃液が再利用できるっていうことだから、自動的に俺のフュエルタンクに注ぎ込まれることは想像に固いし、利用する以上廃液と表現するのはふさわしくない。

アイリーさんは大量のお湯を沸かした。 俺のタンクに中性洗剤をぶち込みお湯を注ぐ。 花咲爺の説明書には「中性洗剤でよく洗え」と書いてあるのだ。 油以外のものをタンクに入れるのは抵抗があろうがしかし今このタンクのなかには油どころか錆びとスラッジが入っているわけで、いまさら何をためらうことがあるか。

タンク内部に異物を溜め込んでしまうことに注意を払うことができないくらいに、あの頃のアイリーさんはヘコんでいたし、生きること食いつなぐことに手一杯だった。通り過ぎた後で気付いたのが、あれが「ミドルエイジ・クライシス」ってやつだったのか、ってこと。アイリーさんは物理的に、精神的に、肉体的に、あれの波に揉まれている最中の友人や乗り越えることができなかった仲間たちについて思いをはせた。みんなジブンが生きたいように生きているわけだから自己責任だろっていう考え方は確かにある。でも誰が好き好んで自分からどツボにハマっていくものか。

アイリーさんは、ここ何年かのそうした時期を、そっと見守ってくれた友人たちに感謝をしていた。無理に誘われても対応できなかったし、そのせいで人間関係を壊してしまうかもしれなかったから。

あ〜俺もマジブルー入ってたんで〜 うまくコラボしていきたいんで〜 ぶっちゃけ〜俺的に〜 感謝してるんすよ、いや、マジで。 けどガチで いいんじゃないっすかね?

そして平静を取り戻すことが出来た今、ココロ穏やかに、ミドルエイジ・クライシスの時期に失ったものをゆっくりと回復させようとしている。オートバイをあきらめなくて本当に良かったと思いながら。

しあわせ比べて足りないものを探すのに飽きたら
新しい夜明けが訪れる

Quiet Life/竹内まりや

エア・ダスターに先の長い口金を装着したものでタンクの口から内壁にエアを吹きつけた。中の液体が撹拌されて泡がタンクから湧いてくる。泡まみれになりながらもメクラ打ちで洗浄作業は進む。この間にもコールマン・ツーバーナーは次の作業のためのお湯をどんどん沸かしている。

ザルに白いウエスを敷いて、タンクの中身をぶちまけた。なるほどかなりのゴミが出てきた。からっぽのタンク内部を今度はエアだけ吹き込んでみたら時折ガサッという音が聞こえる。先程の洗剤廃液を再びタンクに入れてエアブロウする。また中身をザルに空ける。これを何度か繰り返した。アイリーさんはこの作業を、ゴールドラッシュと呼んだ。

W1S以降のタンクにはフュエルコックが2個あるのはご存知のとおりだ。花咲爺を使うのにあたってコックを取り外し、何かの方法で栓をする必要がある。アイリーさんはホームセンターで透明のホースを30cmほど買ってきた。それからホースバンドを百円均一ショップで手に入れていた。指で締め付けることができるように樹脂の蝶ネジが付いているものを選んだ。

左右の燃料穴をホースでバイパスして、バンドを締め付けた。清水をホースでタンクに満たした。すすぎとホースからの液漏れチェックを兼ねていた。

一時間ほどして中の水をバケツに空けた。表面の油膜を目視では見つけられなかったので一次処理は終わる。

セ氏200度まで対応している温度計が準備された。 一度に4リットルのお湯を沸かすことができるステンレスのヤカンに「花咲爺」溶液(一度使用済)を張ってコールマン・ツーバーナーの火口にかける。だいたいセ氏70度を目安に加熱する。周囲に異臭が拡散しないか、注意深くチェックしながら。

アイリーさんが若いころから使っていたアウトドアごっこ用クーラーボックス「コールマン・スチールベルト80」は、俺のフュエルタンクの横幅がちょうどよく収まるサイズだ。どうやらスチールベルトの保温能力に期待しているみたいだ。温めて使え、と指定されている「花咲爺」溶液が、少しでも長く温かさをキープできるなら、処理能力が上がるのではないか、と考えていた。

スチールベルトは食べものを入れるのが普通なので、燃料タンクをむき出しで中に入れてしまうことにはさすがに抵抗があった様子で、厚手のビニル袋に包むことにしたみたいだ。そして何度かに分割されて温められた「花咲爺」溶液は俺のタンクに注がれていく。エルシノアでは約8倍に希釈されて使われた「花咲爺」だったが俺のタンクにそれを全部注いだところでせいぜい半分を少し過ぎるくらいにしかならないので、アイリーさんは不足分を70度のお湯で補って、タンクキャップを閉じた。

わが倉敷市ではまだ今のところ、資源ゴミの分割はそれほど細かく指定されていないが、アイリーさんちでは来たるその日に備えて分別を意識している。もし天変地異が発生したとして倉敷市が土砂に埋まったなら、大森でモースが発見した貝塚のように、何千年か後に「アイリー段ボール塚」とか「アイリーアルミニウム鉱脈」として語り継がれることになるやも知れぬ量の、キリンなにがしとかサントリーのなんちゃらなどというロゴがプリントされた資源がうなっている。

アイリーさんは「むかしジャマイカで見たボーキサイト採掘場の光景とは当然違うよなあ」と呟きつつ自宅のアルミニウム鉱脈から10個ほどキリン一番搾り350mlの空き缶を取り出して地面にズラリと並べた。

コールマン・ツーバーナーでぐらぐらと沸かした熱湯を空き缶に注ぐ。アイリーさんは皮の鉄工用手袋をして、注意深くスチールベルトに納めていく。隙間に湯タンポなどを入れたら少しでも冷めるのを遅らせることができるはずだと踏んでいた。捨てるのは一度だ、ビールの空き缶さえあれば飯も炊けるし俺のタンクの内部処理にも役に立ってくれる。

二日間、エルシノ庵で俺のタンクは放置された。

スチールベルト80の蓋を開けたアイリーさんは、ほの温かい俺のタンクに触れた瞬間に作業が成功したことと確信した。1月中旬の寒い時候にこうした作業はどうかと思っていた不安が霧散していた。タンクを持ち上げスチールベルトから取り出す。バイパス透明パイプには、灰色が濃くなった液体とコゲ茶の固形物が滞留しているのがわかる。10年くらい前に琵琶湖近くの博物館で見た、下水が処理されるまでを表現したオブジェを見て、数日間食欲が減退したのを思い出したアイリーさんだった。おええ。

濃色の廃液だって、まだまだ再使用できるかも知れないから、やはり金属製のバケツにタンクの中身をぶちまける。その後でホースからの水道水とコンプレッサからのエアを併用してタンク内部をしつこくメクラ打ちで洗い流す。排出された水には時折スラッジが混じっている。ゴールドラッシュは続く。やがて作業に飽きたのか妥協点に達したのか、洗浄作業はやめてリンス用「花咲爺溶液」がタンクに注がれた。

リンスを終えた俺のタンクはアイリー農園の簡易ビニールハウスに安置された。3つの穴はぜんぶ開放されている。

へえ。いいじゃん。自然乾燥が終わったタンク内壁に気になる類の汚れは見当たらない。あの夜は俺にアンゴルモア大王が降臨したもんで俺は海に沈んだけど、今は木花咲耶姫(このはなさくやひめ)が降臨してくれているのね。よかったよかった。アイリーさんは満足している。しかも厚かましいことには、例の廃液を二基のコールマン・ツーバーナーの燃料タンクとか農機具用ガソリン携行タンクなんかの内部にまで使い回そうと画策している。まあいい。例によって、使えるものはできるだけ使うってことだろう。

「がびーん どびーん はげちゃびーん」 突如アイリーさんが奇声をあげた。一連のゴールドラッシュ作業を振り返ってみたとき、圧縮空気に水を混ぜてタンク内部の掃除をしたのは、ある意味ウエットブラストなのではないか、という仮説がアタマに浮かんだせいだ。検討の余地はある、とひとり息巻いている。

ウエットブラストのことは夜にググってみよう、と今日の作業残り時間を有効に使うことにしたアイリーさん、今度は内部がキレイになったからタンクの外側つまり塗装面を手入れしようと、極細目コンパウンドの缶を開けた。あららら、中身がそぼろ状の固体と白い粉になってしまっている。すっかり水分が無くなっていた。最後に使ったのはいったいいつだったか、まったく記憶にないが、さては、と粒子のサイズが違うコンパウンドの缶の中身も確認してみた。やはり同様で粉っぽい塊になっていた。暗黒神話(諸星大二郎)での武内宿禰の落胆ぶりが偲ばれるというものだがアイリーさんはそれでもコンパウンドの復活を検討していた。

たぶん油なんかじゃないよな、と熱湯をコンパウンドの缶に注いでいた。アイスクリームのヘラで撹拌してみたところ、なんということかコンパウンドがコンパウンドらしくクリーム状になってきた。おそらくまだそこいらへんに木花咲耶姫が残っていらっしゃるのだろう、アイリーさんはそう思った。

4種類のコンパウンドを全部元通りにしたところで、アイリーさんは一番粒子の粗いコンパウンドを手にして、俺のタンクではなくてエルシノ庵に向かった。

いきなりサンドブラスト・キャビネットの窓を磨き始めた。樹脂の窓はブラストメディアで傷だらけになっていて、曇りガラスの状態だ。中の様子が見え辛く作業性が低かったのが難点だったが視界がクリアに開けた。「木花咲耶姫様ありがとう。これでレストア用の道具がレストアできました」感謝しきりである。

エルシノ庵の軒下には、日立のコンプレッサ「ベビコン」が内臓されてあるボックスを置いてある。ボックスにはSOP7SPRと刻印がある。そのボックスの上にサンドブラスト・キャビネットは据えられていて、アイリーさんが立ったとき一番楽な姿勢で作業ができる高さになっている。

ベビコンを起動した。 キャビネットの中にはフュエルコックが2個。アルミナで一皮剥いてみた。そのあとメディアをガラスビーズに入れ替えて処理。アイリーさんくらい短気なヒトでも、このくらい小さい部品だったらサンドブラスト処理ができてしまう。それにつけてもやっぱり遮音ボックスのあるコンプレッサは静かでいいやね。

夜。 Macを起動してFireFoxでググるアイリーさん。

「不思議だ。サンドブラストだとメディアのことをいろいろ詳しく書いてあるのに、ウエットの場合はなんだかわざと伏せて書いてあるような気がするんだよなあ・・・・」

ついムキになって検索と閲覧を繰り返すけれどどうもわかりにくい。

えっ。ガンはサンドブラスト用でも代用できるの?

ガラスビーズを使うこともあるの?それは乾式のものとは違うの?

重曹ブラストって文言があったけど、それって何?あの重曹?

「実験するしかあるまい」
また暴走するの??アイリーさん。

ニンゲンは時として自分を見失う
でも俺はいつも俺、待つのに慣れている

オレにカマわずゆけ / 仙波清彦&はにわオールスターズ

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続く

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