ティラー もう一台

Oct 20,2007

義母さんの菜園は、妻の実家に隣接している。 毎年の春と秋には、収穫期を終えた野菜を整理して、耕すことになっている。 わたしが。

その日はタマネギとソラマメを栽培するスペースを作る計画だった。

義母さんの畑から、春夏の野菜を収穫した後の枝やら蔓を整理整頓する。スイカやらズッキーニとかの残骸を、ばさばさと刈り取ってどけてゆく。 それから地面を耕すつもりだった。そのつもりだったが「ぼくの大好きなトラクター」ヤンマーのマイ・ティラーMT200が不調に陥った。エンジンが始動しない。なかなかに業が深い。弱ったもんだ。どうしよう。

なだめつすかしつ、年に二回動けば良いという機械だが、壊れてしまうとそのダメージは半年間にも及ぶことになる。

間引き菜の一種としてなのかも知れないけど、わたしの家では新玉葱どころかタマネギの若い葉を、煮て食らう習慣がある。ちかごろ近所の大型スーパーで「葉タマ」なる商品名で見かけることもあるから、ウチだけの悪食ではないことがわかって安心したこともある。

それからソラマメ。わたしは収穫直後にスチームしたソラマメが好きだ。ボイルじゃだめだし、たとえ市販の立派なものを見ても、店頭に並ぶまでのリードタイムを考えたら、お金を払おうとは思わない。収穫直後じゃないと意味がない。

ああっ葉タマが。ううっソラマメが食えなくなるかもしれない。小型耕耘機が働かないと、去年と同じクオリティの食生活が維持できなくなってしまうことになる。気持ちが貧しくなってしまうぞ。

以前にキャブを変更して以来、なんとか安定稼動したのは、2006年の秋と2007年の春のたった二回だけだったってことになる。今度は何がいったいどうなっているんだろう。やはりキャブだろうか。

ひととおり思う範囲で掃除をしてみたが、依然とご機嫌は悪い。グシュとかガシュンとか、いやな音がするが、動いてはくれない。

そこでプラグの状態を確認しようとした。

取り外してみると電極が湿っていない。キャブを掃除したばかりだからバルブが疑わしいのか。

いや待てよ。プラグがきちんと締め付けられてないせいで負圧が発生しなかっただけなのかも知れないぞ。プラグを取り付けてトルクをかけたとたん、わたしの右手に厭な感触が伝わった。

ぬるり

一生の不覚である。プラグホールをナメてしまった。

ヘリサートしかない。と言っても自分で始末できるわけではない。またもや師匠先生に修理をお願いすることにした。

携帯電話で連絡を取った。それからシリンダヘッドを取り外した。サイドバルブ形式エンジンのシリンダヘッドは、2サイクルエンジンのヘッドに似ている。だから、こと分解に関しては、簡単このうえない。

師匠先生のところにヘッドを届けて、その日の悪戦苦闘は終わった。

翌日。シリンダヘッドが戻ってきた。 組み付けて始動を試みた。依然動かない。残念だ。 問題点はプラグおよびヘッドからの圧縮漏れではなさそうだ。

なにかほんとに、くだらない理由で動かないんだろうなあ・・・・・ひとり悩みつつ、今度はバルブを疑うことにした。

腰痛対策として作業台を用意した。その上にヤンマー・マイ・ティラーMT200を据えた。

シリンダヘッドを取り外し、キャブをマニホールドを、そしてなんていう部品なのか知らないが、それを取ったらバルブをプッシュロッドが直接押す小部屋が見える、という蓋、を取り外した。(ややこしいな)

ラジオペンチとバイス・プライヤなどを駆使して、バルブスプリング・ストッパとコッターピンを兼ねた、円形の金属プレートを取り外せばバルブをエンジンから抜くことができる。バルブそのものは例によってドリルにクワえて磨く。バルブシートの当り面はコンパウンドを塗りたくってから、指先でバルブを回転させて磨く。傘の直径が小さすぎて、手持ちのタコ棒が使えないから難儀だ。地道に指で回してやるしかない。

指紋が擦りきれるほど磨き続けることもあるまいと、適当なところで切り上げた。バルブにもシートにも新しく白い輪ができている。これでバルブのオーバーホールを終えたことにしよう。

サイドバルブ式にもずいぶん手馴れてきたものだ。とは言っても、以前に、グレコのストラトみたいな名前の、スズキの発電機で体験したことを、ていねいにトレースするだけのことである。

バルブスプリングを指で圧縮してから結束バンドで二点を留めた。零時と六時の位置で締めあげた。

所定の場所にバルブを戻し、圧縮をかけたスプリングをセットする。ラジオペンチで円形金属製プレートをバルブシャフトの切り欠きに差し込む。最後にニッパーで結束バンドを切断して、カスを除去する。

バルブが正しくリフトするのを確認してから、ぜんたいを一気に組み直した。

チョークやスロットルの開度をいろいろと変更しつつ、スタータを何度も引っ張った。本来ならばチョーク全閉スロットルオフで動くのがエンジンっちゅうものなのに。 バビッとかドベッとか、いやな音がする。 まるで絶不調W1Eみたいだ。

それでも15回目くらいに、なんとか始動した。が、そのままにしておくと2分ほどして勝手に停まってしまった。エアクリーナから白い煙がもくもくと出ていた。 まるで絶不調W1Eみたいだ。

「何の煙やろ」

構造とニオイから判断するに、これはブローバイ・ガスだな。 「それを取ったらバルブをプッシュロッドが直接押す小部屋が見えるややこしい蓋」から8パイのチューブが出ていて、それがエアクリーナボックスに接続されている。つまりブローバイ・ガスは燃焼室に送り込まれて燃やされる構造だ。 そういった構造なんだろうけど、これほどまでに真っ白い煙は、うまくエンジンを動かすことができないのだろう。

ブローバイのホースをエアクリーナから開放して再始動を試みた。何も無かったように、エンジンは動いている。事実何もない。 5分くらいそのまま動かしつづけた。ブローバイ・ガスの色は、目視では半透明になったり白くなったりするのを繰り返している。決して透明には見えない。と言うことはピストンリングに損傷ができてしまったか。

ぶらぶらしているブローバイのホースをエアクリーナに差し込んだ。するといきなりエンジンはストールしてしまった。 なんだなんだ。何がどうしたって言うんだ。

再びホースを外して、スタータを引っ張る。エンジンは動く。ブローバイを元通りにする。するとエンジンは停止する。この流れを三度繰り返したところで、わたしの気持ちが折れた。

ブローバイ・ガスが白くたっていいじゃないか。耕耘機なんだから。実際、エンジンさえ動いていれば、義母さんの畑を耕すことはできるわけだから。

わたしは、大気汚染型ミニ・耕耘機の名を受けたMT200のエンジンオイルの量と色をチェックした。それから作業台の上から降ろし、一気にグレイハウンド・ジムニーの荷室に乗せた。ステアリング・ウイールを握って十分後、わたしは妻の実家に到着していた。義母さんによると、今日は畑ぜんたいではなくて、そのうちの約20坪くらいを耕して欲しい、ということだったので、さっそくわたしはエンジンを始動させ、畑に入った。

耕すのにトルクが必要だからエンジンの回転速度を上げる。すると、ブローバイ・ガスがあきらかに白くなって噴き出し始めたことがわかった。

こりゃあんまり良いことにはならんな、と思った。

ケムリ、ぎょうさん出てまっしゃろ、と悪怖狼くんのモノマネもした。

それでもマイ・ティラーMT200は、もりもりと地面をひっくり返し続けてくれている。予定の半分を耕したところでエンジンを停めて、オイルの色と量を確認した。思ったとおり、ずいぶん量が減っている。畑のど真ん中でこんなことをするのもどうかと思うが、トクトクとオイルを追加して、エンジンを再始動した。

オイルを足した場所から、5mほど進んだ場所で悲劇は起こった。

ブイーンと低く唸り続ける動作音を、カチンという金属音が遮った。

おそらくコンロッドが破断した。 MT200が、わたしと義母さんに、お別れを告げた。

わたしは残りの数坪を、備中鍬を手にして耕した。今シーズン中にMT200を復活させるのは無理だろうと思ったからだ。 実際に耕したのはわずかな面積だけど、手に肩に腰にずいぶんダメージが残った。しかも機械が耕したときの粒の細かさには程遠い。

不覚にもMT200を壊してしまった。ココロにも大きくダメージが残った。

どこかで汎用エンジンを見つけてきて載せ替えますワ、と義母さんに言って、クラッシュドMT200はジムニーに載せられ、ムー大陸式貸ガレージに安置された。ガレージは条件さえ整っていれば陸上にある。

(さ、三万円までなら何とか出せるかもしれない。)

ガタガタで治療中の歯について、この先いったい幾らお金がかかるか想像もできないときなのにも関わらず、根拠の無い数字を思い浮かべながら、わたしはYahooオークションを閲覧していた。

Webオークションは嫌いだ、とかつてどこかに書いた。そのことには矛盾してしまうがこの場合はしょうがない。Googleで「ヤンマーMT200」をキーワードにして検索をかけるなら、上位ヒットはたいていオークション記事なのだから。

オークションの記事とはいっても、そこから新しい情報を読み取ることもあるからバカにはできない。キャプションに「ヤンマー小型耕耘機 管理機 MT200 *円スタート!」と表示された物件があった。管理機??管理機とは何だ。もしかして、ティラーというのは管理機のことなのか。無知を呪いつつ、新しい知識を仕入れる。その瞬間、なにかがひとつ、押し出されて記憶から消えた。もちろんそれが何かはわからない。できればそれが微分方程式あたりのことであることを熱望することにしている。いつも。

また別の物件では「ヤンマー小型耕耘機 MT300」というのがあった。ん?MT300とは何だ。200の間違いではなくって?

そのときに得た知識は、MT200は最大2psだけどMT300は川崎重工の3.1psエンジンで排気量も大きい・・・ふむ、EJ650とかZ2みたいなもんですかな。

わたしが探している小型耕耘機というジャンルでは、ヤンマーのほかに、クボタ、ホンダ、ミツビシ、イセキ、オーレック、ロビン、リョービ、キョーリツ(一部を除き順不同)などの製品が中古機械となって出品されている。小型耕耘機とはいっても、2サイクルエンジンを載せた本当に小さいものから、軽トラックを持ってこないと運搬できそうにないサイズのものまである。

しょせんは家庭菜園の省力化横着化を目的にするものだから、4サイクルの2〜3馬力のもの、ちょうど先日壊したばかりのMT200ぐらいのものでウチは必要十分だろうと思った。動作において確実性があるなら外装がボロボロだろうが何だって構わない。あと、ジムニーの荷室に収まるものなら尚良い。義母さんの畑だけでなく、わが家の庭のプチ菜園だってたまには天地返しをしてやりたいから。

オークションの記事を注意深く読み進める日々が続いた。

送料込みで三万円までだぞ。なるべくエンジンの調子が良いもの、オイル管理がきちんとなされていたもの、ヤンマー・クボタ・ホンダ製品のもの、そういった物件を探してはブックマークしてオークションの行方を見守ることにした。

と言っても、三万円持っていることにして、他人の戦いをただ見守るだけにとどめた。今のところは、他人の目の「エンジン好調」をどこまで信じることができるか眼力を養うことにしよう。落札者のインプレッションを読むのも、なかなかに楽しい。すべて自己責任だ。

今の季節は秋。世の中のファーマー諸氏は繁忙期だ。やがて閑散期になれば多少値段が下がってくれるかも知れない。そうしたら来年の春までにはわたしのお気に召す物件が現れるかもしれない。そのときこそが勝負だ、とココロに決めた。

ありがとうYahooオークション、勉強になったぜ。ある程度人気のあるジャンルならば、そこにちりばめられたネタさえも丹念に読むなら、じゅうぶんナレッジメント・データベースになりうるぞ。

以来わたしはMT200などについて、小型耕耘機ではなくて管理機とかティラーと呼ぶことにしよう。でもどうして管理機=ティラーなのか知らない。商品名なのか発明者の名前なのか、それとも機構の名称なのか、そこいらのことはいずれわかることになるのかも知れない。

そういやそうだ。海沿いの町ならではのことだな、と調べてみて気付いたのだが、わたしの住んでいるエリアには、ヤンマーの船を扱うところはいくつもあるが、農機を取り扱う店は一件も無い。農協の出張所を通じてくだされ、ということなのだろうが、一般ユーザーというかオン・エニイ・サンデー農夫を目指すわたしには、いささか不親切というか物足りない。それなら20分ステアリングウイールを握ろう。丘を越えて隣りの町に出かけよう。

隣町は、岡山県でも有数の穀倉地帯である。 船を扱うところがまったく無いかわりに、農機の店はいくらでもある。

妻を誘った。ついでに娘ふたりをハイエースに押し込んだ。 休日の昼めしを外で取るついでに、わたしは農機具屋に行きたいのだ。 農機具屋はどこでもよかった。だからいちばんウチから近い店にターゲットを絞った。

わたしとしては、店頭に中古管理機が出ていないか、あるとしたら相場はどのくらいなのか知りたいだけだった。 MT200のエンジンだけ売っていないかとか、エンジン以外ボロボロのジャンクを安く手に入れることはできないか、そういったことも念頭にあったことは言うまでもない。

店番をしていたおじさんは、「せっかく来店してくれたのだから、せめて最新機の音だけでも聞いて帰ってくださいよ」と言う。躊躇するわたしらを無視して、おじさんはメインスイッチをオンにしてチョークノッブを引っ張った。 それからスターターのノッブを握って、ぬるぬるぬるってな感じで、ゆっくりと引っ張った。

スロローン

ホンダの4スト単気筒150ccクラスの音が聞こえはじめた。

「これが13万円の売価にしている機械です」

おじさんはにこにこしている。MT200で苦労している人間に、目の毒を浴びせ掛けておいて、その驚く様を見て得意げになる気持ちはわかる。わたしもかつてダブルワンでそうした行動を取ったことが何度もあるから。

比較対照として引き合いに出すのもどうかと思うが、コラム「刈ってゆく草2」で書いたとおり、ホンダ4サイクル農機のイメージが、わたしにとってすこぶる良い。 だけど新品購入など、わたしの眼中には無いのだ。新品贈呈なら、謹んでお受けしたいとは思う。

ちなみに妻は、あのときオータムジャンボ宝くじを購入することを決意した、と後で語った。

しばらく経ったある平日のことだった。その日のわたしは代休をとっていて、ひとりで岡山県南部にある農機具屋を何件か巡ってみようと計画していた。

そして実行に移した最初の一件目。

店のおじさんが、丁寧に接客をしてくれた。 お勧めはヤンマーの、やっぱり13万円くらいの機械で、それのデモ機があるから実際に操作してみてくださいと言ってくれたが、壊してはいけないので、と固辞した。ここには中古の管理機が2台あった。ひとつはホンダのが7万。もうひとつは、ヤンマーのMTシリーズで200よりちょっとだけ新しいやつが置いてあった。それが45,000円。

「あっ」

おじさんが巧みにデモ機を操作する姿を見せてくれているデモ圃場の向こうがわに、累々とジャンクが積み重なっているのを、わたしは見つけてしまった。その中にMT200があることもすぐにわかった。わたしはすっかり気分が萎えてしまっていた。 ここまで丁寧に客としてわたしを扱ったくれたおじさんに対して、あそこのゴミを下さい、と言う気力はない。いつもの図々しさは発揮できない。

二件目以降では、まず店の周囲を失礼にならないように一度チェックしてから、店の人と話をすることに方針転換した。ココロにそう決めたとたん、今度はジャンクはおろか中古機さえ無い店ばかりに行き当たってしまうことが続いた。

ずいぶんくたびれたし、昼飯も食いたいしキリが無いし、と自宅方面に向かって走り始めてしばらく経ったときのことだった。

匂った。

カンに触る、琴線に触れる、妖怪アンテナがびびびと唸る、さまざまな表現方法はあるだろうと思うが、あのときのわたしには匂いがわかった。それは結果論だ、と言うむきもあるだろうが笑いたくば笑え。

こんな話題が続く。

わたしは、気になる看板を掲げた店の前を通り過ぎた。この道を通るのは久しぶりだが、前にはこんな店は無かったと思った。片側二車線でUターン禁止の道だったから、店の前にジムニーを停めるのには結構な時間がかかった。安全第一だ。

いわゆる、中古オートバイ買います、の店だ。トラクターも買いますって書いてある。買いますっていうことは在庫がいくつかあるのに違いない。中古どころかジャンクだってあるかもしれない。交渉すればなんとかなるのに違いない。 ココロのハードルの高さがどんどん下がっていた。

店のおじさんが出てくるまでの間に、わたしはいわゆる管理機、おそらくヤンマーMTシリーズのなにかが2台、並べているというか無造作に置いてある一角を見つけていた。

行け。先手必勝だ。猫なで声、でも強い語気でわたしは言った。

「おっちゃん!あれは売り物け?」

中古オートバイ買います・・・のトラックが自宅近隣を巡回するときには、まるで目の仇のようにしているくせに、なんとも現金な感情の動きだった。

さらに物件に近寄りながら、わたしの背後にいるおじさんに語りかけた。

「なんぼか払うし、譲っておくれ」

何の力がどのように作用したのか、それはわたしにはわからない。それもすべて結果論だ。

「ああ、ええよ、ええよ。どっちか一台ならええよ」

MT200とMT300が、それぞれ一台ずつそこにあった。 さあ、どっちにする。迷っている姿を周囲に感じさせないように気配りするのを忘れずに、おおいに悩んだ。手を触れず、二台を比較し値踏みした。

決めた。MT300だ。だめでもともと。そしてモア・パワーだ。

「なんぼや?」

「ええよ。タダで」

おじさんの気が変わらないうちに、ジムニーのリア・シートを跳ねあげて、カーゴスペースを作り、車に載せっぱなしだったレジャーシートを敷き詰めて、その上にMT300を積み込んだ。

わたしはジムニーを走らせていた。 願いが通じたこと、運が開けたこと、お金を使わないで、もう一台の管理機を手にいれることができたことを喜びながら。 もしもハイエースで来ていたなら、なんとかネゴシエーションした末に、二台とも持って帰ることができたかもしれない。わたしは、花咲か爺のよくばり爺さんより、タチが悪い。無料あるいはタダ同然ってのに極端に弱い。ジムニーの荷室のサイズを嘆きながら、わたしはグレイハウンド・ジムニーを走らせていた。

つい数日前までMT200が据えられていた作業台の上に、MT300を載せた。両手で持ち上げて、えいやっと置いたわけだが、あきらかに重量が違っていた。エンジンのサイズだけでなく、ぜんたいに大きく重く作られているような気がした。

さあ、やるぞ。 チェックポイントはだいたいわかる。構造にまったく差はないと思った。 まずエンジンオイルから。なぜか新品オイルが、やや多めに入っていた。不気味だ。 燃料タンクを取り外す。水?へんな臭いがする透明な液体が出てきた。あらかじめ用意していたペットボトルに受ける。タンクそのものは樹脂製だから、エアブローしたあとで灯油を流し込んで洗った。

おそらく廃棄に至ることになった原因の本丸、キャブレターに取りかかる。 湿式のエアクリーナ・エレメントは原型が残っている。握りこんでも、それほどにはボロボロと崩壊しようとはしない。でも再使用する気分にはならない、という程度には痛んでいる。

周囲には、みんなご存知のあの臭い、腐ったガソリン臭が漂い始めている。わたしはキャブ清掃セットを用意して、続く事態に備えた。

スロットルもチョークも、腐ったガソリンが化けた赤茶色のガム状物体が固着していて動かない。フロートチャンバーを外すとやはりガムまみれ。フロートバルブも動かない。

キャブクリーナの臭いを我慢しながらスプレーしていくと、ネジ穴が見えてきたりバルブが動いたりする兆候が見えてきた。そこでバラせるだけバラして掃除を進めた。

わたしには、キャブ清掃専用スペシャル・ツールがある。何年か前に師匠先生から貰った。なんという名前のツールかは知らないが、歯医者で、歯根をグリグリと治療するアレだ。太さ長さがちがうものを三本貰った。メインジェットはおろかキャブの穴という穴ぜんぶを、こいつでぐりぐりと貫通させてスラッジを掻き取ることができる。

かつては、エレキギターの弦とか歯間ブラシとかで作業していたが、これは便利。飛躍的に能率と効率が良くなった。 (今回、コラムに書くのにあたって、なんという道具なのか調べることにした。リーマーとかファイルと呼ばれるものだと知った)

キャブを組み直した。

燃料コックは水分のせいで駄目になっていた。固着して回すことができない。そこで今日のところはタンクとキャブを直接連結することにして新品の燃料ホースを取り付けた。

エンジンオイルは抜き替えた。勿体無い気がしないでもない。

火花を確認してみよう。プラグを取り外す。プラグの番手はB6E。 MT200は草刈機なんかと同じの小型プラグだったけど、排気量が大きいぶん、オートバイと同じになるんだな、と思った。

火花は良好。そのままの状態でプラグホールを覗きこんで、燃焼室の具合を見た。汚れについて、たいしたこともなかろうと判断した。

エアクリーナ・ケースの形状が、MT200と300では違っていた。だからエレメントの形もぜんぜん違う。今日のところは台所スポンジをオイルに浸して詰め込んだ。

おそらくこれが、オークション出品物件では「オイル交換済・キャブOH済」って状態なんだろうな、と架空の物件を落札したことにして、それが今届いたばかりの人の気分を、わたしは味わっていた。

ガソリンを通してメインスイッチをオンにする。チョークを閉じて、スロットルがオフ状態にあることを確認した。 くっ。スターターが重い。 重いよ〜と右腕が悲鳴を上げる。と同時にMT300が起動した。 オークション物件では「エンジン一発始動」ということになるのだろう。 ちなみにここまでのオーバーホールに所要した時間は一時間強である。

おお。動いている動いている。でも作業台の上のままで、クラッチ系の確認をぜんぜんやっていない状況にあって、このまま動かし続けるのは、本体や周囲を破壊する恐れがあると思った。エンジンを停止して、今度は駆動系のチェックをすることにした。

もうここまで来たら、気分は上々だ。 ハナウタまじりの世界が訪れている。

歌はサンディのHAI HAI HAI。

♪みぃんな くるくる回ってる〜♪

ベルトのカバーを外す。W1Eで言えば、一次減速カバーだ。 Vベルトはそのまま使えそうだ。 クラッチはVベルトをローラーが押し付けることで動作する。レバーを握ればローラーがベルトから離れる。それまでベルトのテンションが緩むとエンジンの駆動は、耕運爪には伝わらなくなる。

クラッチレバーとローラーを動作させる仕組みに注油して、稼動域とテンションを確認したことで、基本のメンテナンスを終えたことにしよう。

新しく手に入れた古い管理機、MT300は作業台から降ろされた。

ちょうどそのタイミングで、妻が外出から戻ってきた。 彼女は宝くじで使うはずだった運を、ここでぜんぶ使い果たしてしまった、と笑った。それから、実家に行くついでの用事がある、ということだったので、すでに小学校から帰宅していた長女といっしょに三人で下の娘を保育園に迎えに行くことにした。

ハイエースには、もうMT300が積載されていた。

義母さんの畑でスイッチ・オン、ワン・ツー・スリー。 野太いエキゾースト・ノートが響き、めりめりもりもりと地面を耕し始めた。

重量がやはり違う。その重さを使って、どんどん地面にめり込んでいく。そして引力をものともせずに前へと掻き出て行こうとするパワー。くわーっ、シビれるぜ。

MT200とMT300の違いは、EJとかZみたいというより TL125がポイント点火でバイアルスと呼ばれていたころのTL250を、TL125と比べたときのドカドカ感覚というか、RSCのTL250Rより、ルジャーンが乗ったTL360(RS360Tかも)みたいな差だと、そんな風に思った。 じつにひどい例えだ。でもエンジンが大きくなっているぶん、シャーシも別設計になっているようだから、あながち悪い説明だとも思わずに、言いえて妙だと言い張ることにする。

パワーだけがすべてではない、そんなことはわかっている。でも今日だけは安定して出力され続けているトルクに酔っていたい。

酔いが急に醒めた。 エンジンの回転がばらついて、やがて停止したのだ。

わたしはキャブを覗きこんだ。ガソリンのしずくが滴り落ちている。むっ。フロート室のОリングか。燃料ホースを指先で折って燃料の流れを止めた。なにしろ燃料コックは未装備だから。それから大声で妻を呼び、ドライバと携行燃料タンクを持って来てもらった。畑のど真ん中で、整備工場の開店だ。

燃料を抜き取り、キャブを取り外す。 フロート室のОリングは、たしかに硬化していた。何年ぶりかに燃料を通されて、しばらくは我慢できていたけれど、久々の振動で限界を超えてしまったのだろう。

ムー大陸式ガレージに駆け込んだ。鎮座しているクラッシュドMT200からキャブをひっぺがして来た。それからОリングをリプレイスする。 MT300は、何事もなかったように吼え、もりもりと義母さんの畑を耕している。

カルマは、回る。

皆くるくる回ってる
時計もカルマも惑星も
ここが噂のパラダイス
あなたの心は入場料金

SATU DUA TIGA 皆して
JOGET JOGET 踊り明かそう
国境だらけの世界地図
JOGET JOGET 塗りかえましょう


SANDII / HAI HAI HAI

↑先頭へ


Warning: include(jump2.txt) [function.include]: failed to open stream: No such file or directory in /var/www/w1-3.com/html/jump_base.php on line 63

Warning: include() [function.include]: Failed opening 'jump2.txt' for inclusion (include_path='.:/usr/share/pear') in /var/www/w1-3.com/html/jump_base.php on line 63
進行性W病 www.w1-3.com 1999-2008
i_irie@po.harenet.ne.jp

Valid XHTML 1.1!Valid CSS!