刈ってゆく草2

Sep 28,2007

うちの倉庫の中には、じつに業の深い草刈機が、一台ある。どのくらいの因業なのか、以前にコラム「刈っていく草」にくどくどと書いてみたが、先日すこしだけ状況の変化の兆しというか突破口が見えてきたので、続きを話題にしたいと思う。

これまでの経過

共立というメーカーの草刈機が、わたしを酷い目に陥れている。 エンジンは2サイクルで、排気量が30ccくらい。 この10年来何度も壊れたが、そのたび自力で修理してきた。

<修理の内訳>

  • スターターコイルの破断×5回
  • ダイアフラム式キャブレターの、透明な樹脂でつくられてあるポンプの破断×2回
  • キャブの分解清掃×2回

混合燃料を使うが故に、長期保管後にはどうしても不調に陥りやすい傾向にあるキャブレターについてはさておいて、スターターのコイルが何度も壊れるということは、いったいどうしたことだろうと思い悩んだので、メーカーに対してどんな設計品質なのか問い合わせてみた。すると、スターターは最後まで引っ張ってはいけない、ということを教わった。つまりスターターコイルの設計品質について瑕疵はない、とメーカーのお客様相談室担当は主張したのだ。お詫びの言葉も代替部品も、ネゴシエーションの結果、得られることはなかった。

だからといって草刈機を買い換えるほどには、お金をかけようとする気分ではない(わたしが吝嗇だから)。

以前のコラム「刈っていく草」には、怒りにまかせるまま、草刈機の業の深さについて書いた。そのときのエキサイトした感情がいまだに収まっていないことは言うまでもない。

ある日の夕方、三歳になったばかりの下の娘と近所を散歩していたときのことだ。草刈機が二台、資源として始末されようとしている現場に直面した。

もしもそれらがマキタ社とか一流(のユーザーフォローが期待できそうな)メーカーの製品だったならば、貰って帰ってしまおうと近づいてみた。

その直後、わたしの目尻は下がり、鼻の下は伸びていたに違いない。鏡を持ち歩いていなかったことが残念でならない。

二台の草刈機は、どちらも本田技研の製品だった。いろいろなことが期待できそうなのである。

娘を自宅に連れ戻したあとで、わたしは二台の草刈機を引き取るべく再び家を出た。二台の草刈機を持って娘の手を引くことは不可能だと判断したからに他ならない。

どちらの機械にも、刈り払うための回転刃と、肩から吊り下げるベルトが欠失しているのが見て取れた。

わたしは両手に一台ずつを握り締めて自宅に向かった。右手にある機械は、ちょっと重量が多めだな、という印象を持ちながら。

コンプレッションを確かめようとしたとき、重いほうの草刈機にはプラグが装着されていないことに気付いた。と同時に、エンジンボディにOHVと表示されてあることに気付いた。

おおっ。4サイクルじゃないか。道理で少し重いと思ったわけだ。

わはは。なぜか気分が良い。ココロが高揚した理由は、始動性の良さが期待できるからだった。

じゃもう一台の軽いほうはどうかといえば、OHCと書いてある。やっぱり4サイクルエンジンだ。一般的な2サイクルエンジンの草刈機よりも軽いかもしれない。しかしそれにしても、なんて小さいエンジンなのだろう、エアクリーナ周りがごっそり無いけど(貰い物、いや拾い物に文句を言ったらバチがあたる)。

こちらにはプラグはあった。コンプレッションはある。スタータを引っ張ると火花が散る。

OHVの機械とはプラグ穴の径が共通と思ったので、すかさずそっちもチェックしてみることにする。プラグ無しのままで長時間放置されてしまったエンジンは、内部が錆びていることがままあるのだ。そうした不安に反して、圧縮も火花も良好だった(きっと)。

今のところ、何かが壊滅的な状態に陥ってしまっている、という箇所は無い。どんないきさつがあって廃棄への道をたどることになったのかまったく想像できない。油断は禁物だ。どんな業が隠されているのか、まったく知れない。ご用心ご用心。

ではキャブレターを掃除しよう。どちらもダイアフラム式で、じつに簡単な構造だ。どのように簡単なのかは割愛したい。そのついでにフュエルタンク内部をガソリンで洗った。それからエンジンオイルの量も確認した。4サイクルだからな。

これで理屈の上では二台とも、動作するはずだ。欠品パーツは多数あるけれど。

まずOHVから勝負だ。

わたしはOHVには少し強いはずだと、いつも自分に言い聞かせている。世の中に存在している重要なことのひとつに、精神論がある。

プラグを取り付け、燃料を注ぐ。

透明な樹脂でつくられてあるポンプを何度か押すと、負圧で燃料が流れ込んでくる。小さな透明樹脂の部品の中にガソリンが満たされた。これでキャブに燃料が届いたことになる。

チョークをオンにしてスターターを引っ張る。

(スターターは、最後まで引っ張ってはいけないんだぞ)ココロに届くようにつぶやきながら。

るるるるる

いいぞぉホンダエンジン!一発じゃないか。

5分間くらい回しっぱなしにして、スロットル系のチェックと調整をする。

OK!あとは回転刃を取り付ければいい・・・。

あれれ。ここで刃を止めるナットが失われているのに気付いた。買い足すことにしよう。多少の出費はしょうがないと思った。本日手に入れたうちの一台が完全に動作することがわかったので、永劫、共立グリーン刈払機の呪縛から逃れることができるのだから。

さあ今度はOHCの機械だ。

エアクリーナが欠失している。それでもエンジンを始動できることをわたしたちは知っている。たいしたことではない。

スパークプラグをOHVのエンジンから取り外してきて装着する。むきだしになっているキャブのエア吸入口に左手親指を当てて強制チョークだ。ソプラノリコーダーで高いドの音を奏でる要領で、少しだけ空気が通るように指先をずらす。そして・・・スターターは最後まで引っ張ってはいけないのだ、と叫びながら取っ手を握りしめて引き始めた。

るるるるる

いいぞぉ世界の本田技研製造のエンジン! 一発始動だ。絶好調じゃないか。おまけにアルミのサイレンサが1980年代のTRY1みたいでちょっとカッコいいぞ。

1999年にW3-Aを貰った頃の興奮を、わたしは思い出していた。

ほんとうに気をよくしたわたしは、本田技研の二台に不足している部品を購入するなら、いくらくらい必要になるのか調べることにした。調べるといっても、書物をひも解いたり誰かに尋ねたりするわけではなく、WEBを彷徨うだけだ。(現代用語では、ネットで検索、というらしい)調べるという行為に、この行動があてはまるのかなと思いながら、Macを起動した。

本田技研のウエブサイトを閲覧していた。 すると現行の刈払機を紹介しているところに、つい先程メモパッドに書き入れたばかりの型式番号があるのに気付いた。これが宝くじの一等当選番号などだったらどんなに良いかと思いながら、OHCのほうは現行モデルであることを単純に喜んだ。

閲覧を続けているうち、もうひとつのOHVの草刈機もせいぜい7〜8年前のモデルということを知った。なんとも勿体無いことだと思った。 販売価格はどちらも5万円くらいするものだと記述がある。

わたしが立ち寄るようなホームセンターには、どんなに高級でも3万円くらいの2サイクルモデルしか見かけることはない。だから草刈機(刈払機)なんてものは2サイクルか電動なのだ、と勝手に思い込んでいた。 言い換えれば、4サイクルの草刈機が存在することを、今日まで知らなかったということになる。ちょうどそれはわたしが高校生だったころのルジャーン・ショックを彷彿とさせた。

最寄りの販売店もWEBで紹介されていた。さっそくパーツリストをファックスしてもらい、足りない部品をリストして金額を問い合わせた。プラグや回転刃など消耗部品は含めずに、二台まとめてざっと3,000円というところみたいだ。

あと20年、共立製の草刈機を使うとして、20個のバネをスペアで持つなら、つまり700円×20=14,000円の出費になるわけから、穏やかなココロの置きドコロと費用効果を考えれば、本田技研に軍配が上がる。

いったいどんな構造にすればこんなに軽いOHCエンジンが成り立つのかじつに興味ある。分解して中身を見てみたい衝動に駆られるこの頃だが、じつに業の深いことである。

不足していた部品を調達した後、わたしの基準では完璧レベルに整備されたことになるOHCモデルを携えて、父の眠る墓地に出かけた。秋のお彼岸も近い。

現地で草刈機のエンジンを始動に成功した瞬間、不安感が消し飛び、墓掃除など済んだも同然、と達成感に満たされるものだ。(わたしの場合)リコイルスターターのバネが破断しないうちになんとか起動できますように、と祈りながらエンジン始動を試みるときの、あの心細さよ。(特に、わたしとウチの共立AT203Gの場合)

墓地は高台にある。クルマやオートバイでは直接乗り入れることができない、細くて急な坂道や不規則な階段を5分くらい進まなければならない。だから草刈機が軽いのはありがたい。一発で始動したのち、バリバリと雑草を刈り払っていく。パワー感トルク感が、2サイクルの草刈機とはあきらかに違う。どちらが良いのかは好みの問題だろうか。エディ・ルジャーン万歳。

軽いぶん扱い易いから、OHCエンジンの機械は、妻の実家に置くことにした。わたしの家ではOHVの草刈機を使おう。わたしにはOHVが似つかわしい。多少の重量感はあるけれど、それほど気にならない。そして共立製の草刈機は、わたしの手によって、本田技研の二台が処分されようとしていた場所に、そっと安置された。

カルマは、回る。

愛ってよく分からないけど
かたむく心がいいね
笑っちゃう泣かれて 口説くのも忘れた
ほろ苦い 男の優しささ
男の優しささ


南 佳孝 / スタンダード・ナンバー

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