
やはりたいしたお話ではない。
うちに、ツーサイクルで排気量が30ccくらいの草刈機がある。
10年くらい前に買ったもので、たしか2万円くらい支払ったように記憶している。
おもな使用目的は、10坪ほどの先祖墓地の掃除。それから妻の実家周辺の掃除。あと年に一度、町内会のドブ浚いの時に使う。
年間トータルで、稼動するのは、せいぜい20時間にも満たないのかな、と思う。逆に、だからこのくらいの性能でも充分なのだ。
今から3年くらい前だが、お盆前の墓掃除をやろうとしたとき、どうしてもエンジンが始動しないことが判明した。そこで購入したホームセンターへ運び入れて、修理の見積りをお願いした。
数日経って連絡があった。
「修理代金は18,000円程度になります。」
えっ。
一秒で修理不要と判断して、返送をお願いした。
もちろんここまでのことなら、無料だ。修理するくらいなら新品を手に入れることだってできるような、ひどい見積り金額じゃないか。
再び不動の草刈機を手にしたわたしは、キャブレターを取り外した。ダメでもともとの気持ちでオーバーホールを開始することにしたのだ。
よくは知らないが、フロートで燃料をキャブに送る量を決める構造ではなく、フイルム状のダイアフラムで吸い込むタイプみたいだ。
分解できるだけ細かく部品にして、その全部を洗浄した。穴という穴はエアを通して、それから再び組み直した。
燃料を入れ、部位の名前は知らないがキャブ側面にある、透明で柔らかい樹脂でできたスポイトみたいなところを何度か押した。5回目くらいで、その透明なスポイトは燃料で満たされた。
チョークを引いて、メインスイッチをオンにする。
スターターを勢いよく引っ張った。
ぷるん
わたしは、18,000円の仕事をしたことになる。よかったよかった。
市のごみ処理施設の粗大ゴミが積んであるところに、草刈機が何台も捨てられてあることを知っている。 おれだったら直して使うのに・・・。
と、ここまでのことだったら、ただのちょっとした、にわか内燃機マニアの武勇伝記録に過ぎない。
もちろん続きがある。そうじゃなければこの程度のことなんて、ネタになんかしない。(してきたかも)
自宅で修理されたばかりの草刈機を、先祖の墓地に持っていってエンジンを始動しようとした。
そのとき事件は起こった。
わたしは、スターターレバーを握って引っ張る。
すかっ ぷるるん
エンジンは一発で動き始めた。でも、スターターがリコイルしない。
つまり、紐が巻き取られない状態なのだ。
紐の修理をするのが先か、草を刈るのが先か、ちょっと考えた。
その結果、草を優先した。エンジンが停止しないように注意しながら、戻らなくなってしまった紐は、くるくると纏めて、一時的にやりすごすことにした。
仕事はなんとかこなせた。
自宅に持ち帰って、今度はスターター周辺を分解することになってしまった。
渦巻き状のぜんまいバネの両端に、ケースと糸巻き、それぞれに引っかけるようにしてあるフックがある。どうやらケース側にかかるほうのフックが変形して、延びてしまったようだ。
焼きが入っているから、自分で曲げてフックを作るわけにもいかないみたいだ。
事実、何度も折れた。
しかたない。部品を取り寄せよう。
一週間くらいして、新しいバネが届いた。早速わたしは、バネを新調した。
一年が経過した。
何度かわたしは、この草刈機を使っていた。
さあ、お盆だ。今年も君の出番だ、とエンジンを始動しようとした。
すかっ
あれ。
またか。
しかしわたしは慌てない。こんなこともあろうかと、バネの余分を一個だけ持っていた。
交換しようとした。やはりバネは壊れていた。ケース側にひっかかるべきフックが、破断していたのだ。
ボロめ
わたしは毒づいた。
さらに一年が経過した。
つまり去年、2006年の盆頃だ。
さあ、君の出番だよ、とエンジンを始動しようとした。
すかっ
あれ。
またバネが延びていた。使いものにならないなあ。スペアパーツはもう持っていないし。
さすがに我慢の限界が来た。
「どんな部品品質なんじゃい」
わたしは製造元にヒトコト詫びを入れてもらわなければ気が済まないってとこまでエキサイトしていた。
東京までの電話代など、どうでもいい。わびと代替部品を手に入れる、それだけでいい。
わたしは名誉の部分だけを選ぶことにして、そのメーカーのお客さま相談室に電話していた。
担当のシ*ミと名乗ったその人物、なかなか老獪である。
「メンテナンスが正常に出来ていないか、あなたのエンジンのかけ方が悪いと思います。まさか紐を最後まで引っ張っているんじゃないでしょうね??」
彼は最後までひるむことなく、決して謝ってなんかくれなかった。もちろん代替部品なんて渡される約束が交わされるわけもない。
名誉も電話代も部品代も、わたしはぜんぶ失った。ついでに、スターターは最後まで引っ張ってはいけないことも知った。へえ。
電話を切ったあと、シ*ミ氏が言ったとおりに行動した。その会社の今後の品質向上のため、販売店経由で、そのバネを返送したのだ。それはもちろん、返品ではない。ただ単にモノを戻した、それだけのことである。
悔しいけれど、リコイルできないと草刈機は使いにくい。わたしは忸怩たる思いで、もう一個、バネを注文した。
一週間くらいして、新しいバネが届いた。今のところ、わたしは三度、バネを新調したことになる。
半年が経った。
メーカーからも販売店からも、未だ何の音沙汰も無い。
まあいいや。
このメーカーの商品を二度と買わないから。あんな設計品質じゃ、年間20時間の使用にはとても耐えられない、ってことだし。
話題は替わる。
ウチの近所に中四国地方では大手のスーパーマーケットの小型店がある。
その大規模な小さい店では、レジのおばちゃんやお姉さんたちが、なかなかフレンドリーだ。そんなこともあって、わが家の冷蔵庫として、よく利用させてもらっている。
ある日、下の娘を連れて、そのスーパーに買物に行った。
次女が2歳になったばかりだったころと記憶している。わたしらが買物をしている最中ずっと、うちの娘に付きまとう6歳くらいの女の子がいた。あれやこれや意味があるような無いようなことを言いながら、付いてくる。その保護者の姿は周囲に見当たらない。弱った。
さすがに堪りかねたわたしは、レジのおばちゃんに相談して、女の子の追跡を振り切った。
「ああクレイマーさんの***さんとこの子・・・」
おばちゃんの呟きが、背中越しに聞こえた。アスタリスクは、もちろんわたしの自主規制である。
お金を支払い、店外に出た。
クレイマーさんの***さん、と店のおばちゃんが言った名前と、たまたま同じ姓の女性が、自分の自動車の運転席で、楽しそうに携帯電話をイジっていた。この人って、わたしが小学生のときに、何級か年上にいた人だ。
ああ、そうなのか。このヒトがクレーマーさんかあ。
うちは他聞に漏れず、会話が多いほうの夫婦だ。さっそくその、ストークする女児の話をした。
「おそろしい。おそろしい。
妻は戦慄して続けた。
「それなら、もしかしたら、うちはハンガッカーのハラダさんって呼ばれているかも知れない・・・。」
うむ。たしかに半額シールはわが一家の得意アイテムに違いないのだが。
そのクレイマーさんの***さんは、やっぱりクレイマーさんなんだろうか。よっぽどハゲしいクレームを捻じ込むんだろうか。
じゃあ、わたしのことは草刈機のメーカーには、ただのクレーマーのハラダさんとして、データベースとシ*ミ氏の記憶に登録されてしまっているんだろうか。
なんだか悔しい。
だとしたら本当に悔しい。
刈ってゆく草を始末するたび、ひとり憤怒する。
品質が悪い原因を研究しないばかりか、謝ってしまうと損をする、という企業の、いや世の中ぜんたいの風潮を憂い、わたしのはらわたが煮えくりかえる。
あと20年、この草刈機を使うとして、あと20個のバネをスペアで持つなら、つまり700円×20の大出費。やっぱり、マキタとか、きちんとユーザーのフォローをしてくれそうなイメージがある販売元の製品を買い求め直すべきなのだろうか。少し弱気になってしまう。
じつに業の深いことである。
深入りしちゃだめさ つぶやきのリズムも
揺れる瞳みれば乱れるよ