
右側ケースを、黒いゴミ袋から取出した。予算の都合で、今回のオーバーホールではスタッドボルトの交換は、やらないことにするが、やらないと宣言するのも勇気が要ったぞ! 笑わば笑え!
チェックしてみた感じでは、それほどダメージを受けていないし、腐っている様子もない。スタッド根元あたりに どうしても残留しやすい「液体パッキンのカス」は、あらかじめ剥離剤で柔らかくしておいた後でブラストしてあるので、キレイに落ちている。
左右の合せ面には、特に傷もないし荒れもない。
また、古いパッキンが残っているわけでもないので、オイルストンで表面を浚うこともやらなかった。どうせ強力なシリコン系液体パッキンで、封じるのだから・・・・。
例の3cmの隙間がある作業台に、内側が上に向く格好で置いてみた。クランクも、保管してあった黒い袋から出してきて、オイルラインがある方を下にして、右クランクケースの中央に仕込まれたベアリングのインナーレースに通していく。
クランクシャフトは 奥で太くなる格好の段付きになっているし、インナーレースには面取りがされてある。
コツンと接触した感触が、おれの掌に伝わってきた。
ここから、真っ向勝負である。
ちょうど今、クランクは 垂直に屹立している。頂点になっているのは、一次減速のダブルギアが締め付けられる側のクランクシャフトの終端部だ。
そこに、銅ハンマーを当て、その銅ハンマーの他端を鉄ハンマーで コツコツと叩いていく。
焦ってはいけない。
少しずつ じわりじわりと圧入していく。鉄ハンマーのストロークは、極力、垂直になるように心がけた。
銅ハンマーを緩衝材にしているせいか、どこまで打ち込んでよいものやら感触がうまく掴めない。そのことについて、おれは少々悩んだ。
そんなときに心強い味方になったのが、例の貰い物腰下W1Eのクランクおよび使用済みベアリングだった。
ノギスでフトコロを計測して、それぞれの位置関係をチェックした。
理論値上、これ以上は叩き込めない位置まで、クランクは押し込まれた。
ゾイルを、小さな油差しに入れ、右クランクケースのカムシャフトブッシュに、まず注入した。それから、カムシャフトの両端摺動部にもゾイルを塗り付けてから、右クランクケースにセット。
左クランクケースのカムシャフトブッシュの内壁それからクランクベアリングのボール部分にもゾイルを垂らしこんだ。
一度組んでしまうと、こちら側にはオイルシールがあるので、もはや強制的に潤滑してやる手だては無い。あとで、クランクがきちんと回るかどうかチェックするとき、ベアリングが油膜不足を起こして、いきなりガタを出す原因になってはならない。
いよいよ、左クランクケースの組付けとなった。
それにあたって、左右ケースの合せ面をシンナーで拭き取って、さらにシリコンオフで脱脂した。そして、液体パッキンをウス〜く塗りつけた。
屹立している段付きシャフトに、ケースを通す。
ちょうどベアリングの厚み分を残して、ケースを仮に置くことになる。厳密には、片側の面取り部分の厚みは含まれないがそんなことはどうでもよい。
恐怖と妙な高揚感が、おれを襲っていることが判る。ここからは、ホハンマーやプラスティックハンマーで、左ケースそのものを叩いていくことになる。
全ての打突が、各部にダメージを与えず、かつインナーレースとシャフトが有効にハマっていくように念じながら、少しずつ叩いていく。
アルミの鋳物を直接ハンマーで叩いているから、非常にやかましい。 近所に大迷惑だ。こんなに大きな音をたてることになるとは、思っていなかった。
お願い神様 明日からボクは 良い子になりますだから 今日のこの騒音は どうか許して〜。
様々な余計なことを考えながら作業を進めるうち、やがて左右のケースはついに接合した。
スタッドボルトには ワッシャをかけ、12ナットを取り付けた。
エンジンマウントも、接合接着の治具になるので、仮に組んだ。しかしまだ、全てのナットはトルクをかけてはいない。
一応組みあがったクランクを 正立させ、タイミングギアケース側のベアリングのボールにも、ゾイルを塗った。
シャフトを回してみた。
それは、W3をヤッたときの記憶と比較した結果の考察だが、なんとなく僅かであるが、渋く回っているような気がする。
南無〜
プラハンを持つ手に、緊張が走る。
シャフトそのものや 一次側のケース側面をコツコツ叩いていって、くるんと滑らかにクランクが動く場所を探していった。
やがて とうとう、安定してくれている様子を見つけたので、スタッドのナット類にトルクを掛けた。
ムニュムニュと 液体パッキンがハミ出てきたのを、ボロウエスでぬぐってから、シンナーで拭き取った。
もう一度、作動確認をした。
どう考えても、指先に残っている「おれの"彼のオートバイW3−A"」のクランクを仕上げたときの記憶よりも はるかに勝っていることを確信して、今度は青いゴミ袋で二重に包んで、納屋に運びいれた。
まだまだ先は長いのである。