
CB250RSのエンジンが、今わたしの手元にある。
このエンジン、シルクロードのエンジンと、実によく似ている。ほとんど兄弟みたいなものだ。
みたいなものだけど、大きく違うところが5点ある。前節でも記述しているが、もう一度書き出しておくことにする。(このクドさこそ、拙サイトの持ち味なのだ)
この相違点のうち、最高出力が違う背景を、わたしは少しだけ知っている。
以前にサービスマニュアルを拝見させていただく機会があった。
その本は、CB250RSとCB250RS-Zとシルクロード、共通というか、通しで書かれてあった。それから相違点それぞれについて、別途にページが割かれていたので、なるほど兄弟車である、と再認識したことを憶えている。
たしかこの3点に相違がある。あったと思う。
コラム「砕いて憂鬱」で記事にしたのが、シルクロードの腰下に対して、XL250Sのキックギアを、インストールしたときの話題だった。
それから、ほかにもいろいろやろうと思っていたところが、自分のミスから起きた障害のせいで、頓挫したことも紹介した。
以前の記事には書かなかったが、挫折の背景は、もうひとつあった。
シルクロードとXL250Sのシリンダヘッドを比較すると、別モノとまでは言わないにせよ大きな相違点があったのだ。オイルラインの溝の形については目をつぶっても良いと思ったが、取り付けのボルト穴の数が違った。シルクロードのほうが、ひとつ多い。だから組み合わせを変更することはできない。
そうは言っても、XL250Sは長く生産されたし、何度かモデルチェンジを経ている。うちに転がっているXLエンジンが、どの年式に相当するのかは不明だ。もしかしたらあれが初期型で、だからボルト穴の数が違っていて、最終型XL250Sになるとシリンダヘッドとシリンダーヘッドカバーの取り付けは、シルクロードと同じ仕様になっている、なんてこともあるかもしれない。
そうかも知れないから、うっかりしたことは書けない。ご用心ご用心。
講釈師 見てきたような 嘘を言い
レストアラ 実践したような 嘘を言い
妄想に近い考察のことはさておき、腰上の取り付け穴の数が違うから、前節での作業は、XL250Sのキックギアを単にインストールしただけに留めざるを得なかったのだった。
その組み合わせについて、ヘッドがシルクロードでヘッドカバーがXLというのは成立しないぶん、あんまり余計なことで悩まなくても済んだ。そのことに、胸をなでおろしたものだ。
で。
今。今はあのときと違う。ぜんぜん違う。
なにしろCB250RSのエンジンが、ここにあるのだから。
以前にやったXL250Sとの混合では、およそ考えることができなかったシルクロードのパワーアップ。こいつを主眼に置いて、いろいろ考えてみることにしようじゃないか。
上に書いた、3点の相違に沿ってみよう。
まずキャブレター。こいつはメインジェットの番手とニードルのクリップ位置が違うだけだ。入れ替えれば済むわけだから、あまり深く考えないことにしておく。
圧縮比を上げるために、シリンダーヘッドとピストンはCBのものを使いたい。
最大進角の違いを考えると、スパークアドバンサもCBにしたい。
バルブタイミングやリフト量のことを考えて、カムシャフトについても、しかりだ。
ここまでのことを考えた。そのあとで、もしかしたら、クランクの重ささえ、差異があるかも知れないと思った。ここいらを完全に入れ替えてしまうなら、ポンと5馬力アップとなるのだろうか。
あのクランクも交換するというなら、一度仕上げてある「XL250Sのキックギアを単にインストールしたシルクロードの腰下」を、再び開く必要があるのは止むを得ないか。
能書きは終りにして、そろそろ入れ替え作業を開始しよう。
特に何をどうということもなく、感動もなく、じつに暗い目をして、わたしはCBのエンジンを部品化した。
整理整頓しながらの作業だったので、二時間もかかってしまった。
しばし休息の後、クランク一式をシルクロードのものと交換しようとしたそのときであった。
「がびーん。どびーん。はげちゃびーん。」
フライホイールが違うじゃ〜ん。
シルクロードのフライホイールには、その外周に歯車が刻まれてあったのだ。
そうか。そうだった。このギアに、ガッチャンヒューンとセルのギアが噛みついて、エンジンを始動するんだったなあ。
とほほほ。
しかたがない、フライホイールだけ入れ替えるか・・・。
めいっぱい背伸びした見識と、清水の舞台から飛び降りるつもりでお金をはたいて集めた高級食材を複雑に組み合わせて作った料理があるとしよう。料理の最後の仕上げに化学調味料を振りかけてしまったような状態だ。
理論値で5馬力アップの目標は、その化学調味料のせいで精度を欠くことになった。
フライホイールのロックナットを緩めようと思った。インパクトレンチを用意して、コンプレッサを起動した。
CBのフライホイールを締め付けているロックナットにレンチをセットしようとしたそのときである。クランク軸にチェーンが架かっていることに気付いた。
「がびーん。どびーん。はげちゃびーん。」
二次バランサーを駆動するための仕組みが、CBには存在していたのだ。
つまりクランク軸そのものが、まったく違う仕様なのだ。これくらい悲しいことは少ない。
わたしは、ふたたび暗い目をして、二基のエンジン腰下を、元通りに戻した。
(この調子だと、理論値5馬力アップなんて、きっとムリだ。)そんなことをぶつくさと唸りながら、スパークアドバンサのみを入れ替えることにした。
ふたつのスパークアドバンサ、それぞれを比較してわたしがわかることはただひとつ、刻印された記号が違うだけだ。シルクロードは427、CBは428。素人の目視では最大進角に差がある(確か1度、ということだった)なんて、とても気が付かない。仕様書に書いてあったことで、刻印の意味を推察することができるに過ぎない。
かくしてシルクロードエンジンは、その腰下の仕様が確定した。
続いて、黒塗りの腰上を銀色にしたい。
ここで言う腰上とは、ロッカーケースカバーとシリンダヘッドとシリンダのことである。
腰上は、上記諸々の理由で、すべてCB250RSのものを使う。
まず手始めに、部品の分解なしで作業を始めることのできる、シリンダから手を付けることにしよう。
どうやって、黒い塗装を剥ぎ落とそうか?
このときわたしは、サンドブラストが手っ取り早くて良いと思った。
サンドブラスト専用キャビネットに、ガーネットサンドを入れた。
コンプレッサを起動した。圧力が充分になるまでの間を使って、シリンダ内側にできるだけ砂が入り込まないよう、ガムテープで目貼りをした。
サンドブラストってのは、じつに地味な作業である。性格が気長なレストアラにしか、きっと向かない。
エンジンの黒い塗膜が、想像していた以上に堅牢で、ものすごく手間がかかるわりに、あまりハゲてくれないから、よけいにそう感じた。
最初の休憩をとったとき、この後に続く工程について考えてみた。
シリンダヘッドの塗装を剥がす。バルブを抜き取ってからの作業になる。
シリンダヘッドカバーの塗装を剥がす。ロッカーアームを取り外しての・・・・・。
あっ!
分解できないなら、サンドブラストは使うことができない。
ブラストしたときの砂ツブをどれだけキチンと除去できるか、これが一連の作業のなかでいちばん大切だ。しかしシリンダーヘッドカバー、あの分解清掃は厄介だ。
ロッカーアーム・シャフトを固定するピンは、すでに一度折った。だからシリンダーヘッドカバーについては、一切分解しないことにしたい。もう余計なことはしない。いじり壊すだけだから。
わたしだって、あつものに懲りて膾を吹く。
あれはいい経験だった。
ああ、シリンダヘッドカバーについては、真鍮ブラシと剥離剤で勝負せざるを得ないのか・・・。むう、ぜんぜん先に進めないぞ・・・。
塗装膜が硬い。ああそれだけで、やはり短距離ライダーは憂鬱なのである。